久里浜医療センター

WHO (世界保健機関) アルコール関連問題研究・研修協力センター

  • HOME
  • サイトマップ
  • English

情報ボックス  アルコール  

2. 飲酒と健康問題

アルコールとがん

2009年までに世界保健機構WHOの国際がん研究機関 IARCは、飲酒が原因で発癌する臓器は口腔、咽頭、喉頭、食道、肝臓、結腸・直腸と女性の乳房であり、アルコール飲料、飲料中のエタノール、飲酒と関連して発生するアセトアルデヒドの3つを、発癌
物質と結論づけています。

1. 女性の乳癌
乳癌では欧米を中心に100以上の疫学研究が飲酒との関連を支持し、53の研究のプール解析では、エタノールで10g増加する毎に7.1%リスクが増加しました。発癌機序では、飲酒がエストロゲンを増加させることでリスクが上昇するとする説が有力です。

2. 食道癌、頭頸部癌
食道と頭頸部(口腔・咽頭・喉頭)の発癌リスクは飲酒量・喫煙量の増大と共に相乗的に増加します。1日1.5合以上の飲酒で8倍、30 pack-years(箱数×喫煙年数)以上の喫煙で4倍、両者で30倍の食道・下咽頭癌リスクが報告されています。アルコール依存症男性の内視鏡検診では食道癌が4%、頭頸部癌が1%の超高頻度で診断されます。

a. アルコール代謝酵素の遺伝子多型の影響
1) ALDH2(アルデヒド脱水素酵素2; aldehyde dehydrogenase-2)
ALDH2の酵素活性が遺伝的に極めて弱い欠損型の人は、食道や咽頭の発癌物質であるアセトアルデヒドの分解が遅く蓄積します。
2) ADH1B(アルコール脱水素酵素1B; alcohol dehydrogenase-1B, 旧名ADH2)
日本人の10人中1人はアルコールの代謝速度が遅いADH1Bが低活性型です。
3) ALDH2ADH1Bの組み合わせ
飲酒者ではALDH2欠損型とADH1B低活性型の組み合わせで相乗的に食道や頭頸部の発癌リスクが高まります。長時間高濃度でアルコールとアセトアルデヒドに食道・頭頸部が暴露されるためです。この遺伝子型の組み合わせで飲酒家で喫煙家だと、いずれもない人の357倍の食道癌リスクと報告されています。

b. 簡易フラッシング質問紙法を用いた発癌リスク評価
簡易フラッシング質問紙法は「現在、ビールコップ1杯程度の少量飲酒ですぐ顔が赤くなる体質がありますか。」「飲み始めた頃の1-2年間はそういう体質がありましたか。」と質問し、現在または過去のいずれかにこの体質があればフラッシャーとします。40-79歳の男女とも90%の感度と特異度でフラッシャーはALDH2欠損者です。
このホームページでダウンロードできる「食道癌リスク検診問診票」では、簡易フラッシング質問紙法と飲酒量、濃い酒をストレートでよく飲むか、喫煙量、緑黄食野菜と果物を毎日食べるかの項目の合計スコアが高いほど食道癌リスクが高くなります。40-69歳では9点以上、70-89歳では8点以上は、高危険群の上位15%に該当し、この群の検診での食道癌頻度は2.9%で他の群の0.5%の6倍でした。検診を受診することをお勧めします。

2. 胃癌
アルコール依存症の患者さんには胃を切った人が多くみられます。その頻度は1990年台では15%前後もあり、最近は治療の進歩で胃を切る人が減少し現在は約7%ですが、依然として高頻度です。アルコールは小腸から速やかに吸収されるため胃切除後は吸収が早まり血中濃度の急に上昇し代謝に時間がかかります。飲酒歴を調べると胃切除後に短期間でアルコール依存症になった人が多いことがわかります。胃切除を受ける人は将来のアルコール依存症のリスクに注意すべきです。久里浜医療センターのアルコール依存症者では1%が胃切除時に胃癌を告知されており、検診で1%に胃癌が診断され、計5%の患者に胃癌の既往ないし診断がありました。アルコール依存症者では胃癌は食道癌と並ぶ最も多い癌です。

3. 大腸癌
日本人は飲酒で大腸癌が発生しやすいようです。日本の5つのコホート研究のプール解析では、1合以上2合未満で1.42倍、2合以上3合未満で1.95倍、3合以上4合未満で2.15倍、4合以上で2.96倍であり、男性の大腸癌の1/4は1合以上の飲酒に起因すると報告されています。40歳以上のアルコール依存症男性の大腸内視鏡検診では大腸腺腫が60%以上、上皮内癌を主体とした癌が5%の超高頻度で診断されます。

4. 肝臓癌
本邦の肝臓癌はC型とB型肝炎ウイルスにそれぞれ70%、15%起因するとされていますが、アルコールも独立して発癌を促します。本邦の4つのコホート研究のプール解析では、週1回未満の機会飲酒者を基準に、男性では日本酒換算1日3合以上で1.66-1.76倍にリスクが増加し、女性では1合以上で3.60倍になりました。女性は男性に比し少ない飲酒量で肝障害、肝硬変になりやすいことも、この男女差に関連しているかもしれません。多量飲酒者はC型肝炎ウイルス感染から肝硬変に至る期間が短く、若年で肝臓癌が発生する傾向にあります。本邦ではアルコール性肝硬変からの発癌は5年で8%程度と推計されています。アルコール性肝障害は長期禁酒により再生へ向かいますが、禁酒による発癌抑制効果も知られています。

5. 膵臓癌
飲酒と膵臓癌の関連は疫学研究では関連なしするものが多いです。最近のメタ解析では1日37.5g未満の飲酒では0.92倍とリスクは低下し、この程度の飲酒は膵癌のリスクとならないことが示されました。一方37.5g以上の飲酒でリスクは1.22倍と軽度上昇し、この上昇は膵炎既往や喫煙では説明できませんでした。男女差は無く、地域別ではアジアの研究ではリスクの上昇はみられませんでした。

6妊娠中の飲酒と小児の急性骨髄性白血病
妊娠中の飲酒の影響は胎児アルコール候群と呼ばれる先天異常が有名であるが、小児の急性骨髄性白血病のリスクとの関連も疑われています。2010年のメタ解析ではオッズ比は1.56倍で、週10gのエタノールにつき1.24倍リスクが上昇し、特に0歳から4歳での発症例では2.68倍でした。発癌性や遺伝子障害性のあるアセトアルデヒドの胎児への影響を示すヒトでの研究が未だありませんが特にALDH2欠損型の妊婦の飲酒の危険性はより強調されるべきでしょう。

文献

  1. IARC: IARC Monographs on the Evaluation of Carcinogenic Risks to Humans. Vol. 96. Alcohol beverage consumption and ethyl carbamate (urethane). IARC, Lyon, 2010
  2. 横山顕: アルコールとがん. 日本医師会雑誌 140; 1874-1878, 2011

執筆者
横山 顕

ページTOPへ
Copyright(C)2010 National Hospital Organization Kurihama Medical and Addiction Center. All Right Reserved.