久里浜医療センター

WHO (世界保健機関) アルコール関連問題研究・研修協力センター

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4. 飲酒問題の早期発見・早期介入

飲酒のマーカー

アルコールに関連する疾患や諸問題は放置しておくと進行し、それに比例して改善や解決が困難となります。そのために飲酒問題の早期発見、早期介入が大切です。
 しかしながら初期においては飲酒問題に関わる特徴的な症状や所見は乏しく、何年もの多量飲酒の後に問題が明らかになることも少なくありません。また多量飲酒者は自身のお酒の問題に直面することを避けるために、飲酒量を少なめに見積もることがしばしば見られます1)。

そのために飲酒量や飲酒習慣を明らかにする客観的な指標が必要となります。血液中のいくつかの生化学的なマーカーが、多量飲酒を反映し、アルコールによる臓器障害を示唆し、誰が見ても明白な数値を提示することで対象者自身の飲酒問題への意識を変える、などの点で有効性が認められています。また禁酒によって数値が改善してくると、そのことが禁酒を続ける動機付けになることもあります。以下に代表的な飲酒マーカーを示します。

1. γ-GT (Gamma-glutamyltransferase)
γ-GTは肝臓の代謝に関わる酵素の一つで、肝細胞や胆管細胞内に存在します。肝臓に毒性のあるアルコールや薬物の影響や、胆石やがんによって胆道の流れが悪くなると、血液中に漏れ出し、血液検査での数値が上昇します。特にアルコールにはγ-GTを誘導する働きがあると言われます。数値が70 IU/L以上で要注意です。
1回の飲酒で数値が極端に上昇することは少なく、多量飲酒が1週間以上続き、肝臓に障害が生じた時に数値の上昇を認めます。γ-GTの半減期は2〜3週間とされ、禁酒すると通常は数週間で標準値に戻ることが多いようです。
γ-GTの上昇には個人差があり、特に若年者や女性では敏感度が低く2)、数値と肝機能障害の重症度は必ずしも一致しません。

2. MCV (Mean corpuscular volume, 平均赤血球容積)
MCVとは赤血球1個当たりの容積の平均値で、赤血球の大きさを判断するための指標です。多量飲酒によってMCV≥95fLに上昇することがしばしば見られます。アルコールや代謝産物であるアセトアルデヒドの赤血球への毒性に加えて、バランスの良い食事を摂らないことにより、赤血球を作る過程に必要なビタミンB12や葉酸が欠乏することなどが原因と考えられています。禁酒しても標準値に戻るまでに2〜4ヶ月かかることが知られています。
多量飲酒により食道癌や咽頭癌の発生率が増大します(アルコールとがんの項目を参照ください)。わが国においてアルコール依存症の男性ではMCV上昇に比例して、食道癌や咽頭癌の危険性も増大することが報告されています3)。

3. CDT (Carbohydrare-deficient transferrin)
血液中で鉄の輸送を担う糖タンパク質であるトランスフェリンの中で、糖鎖の一部である4つのシアル酸残基が一部欠損したトランスフェリンを表します。絶対値よりも総トランスフェリン中のCDTの比率(%CDT)で表されることが多いです。特に男性の多量飲酒に対して、他のマーカーと同等かそれ以上の敏感度と特異度が示されています。多量飲酒の10日後には数値が上昇し、禁酒を始めると14〜17日で半減します。
女性では鉄分の不足やホルモンの影響からか、通常よりCDTの数値が高く、妊娠中にはさらに上昇するため、評価には慎重さが求められます4)。

4. AST (Aspartate aminotransferase), ALT (Alanine aminotransferase)
アミノ酸の代謝に関わる酵素であるAST,ALTがアルコールによる肝障害を反映します。一般的にA LTに比べてASTの方が多量飲酒に対する敏感度は高いようです。どちらの酵素もアルコールに対する特異度は低く、様々な疾患で上昇します。AST、ALTともに高値を示す時に、AST/ALT>1の場合はアルコール性肝障害を示唆し、AST/ALT<1ではウィルス性肝障害が疑われます。ただし30歳以下や70歳以上の人にはあまり当てはまりません4)。

5.W型コラーゲン
多量飲酒により肝細胞が傷害され、肝臓が線維化して、アルコール性肝硬変に至るまでの過程において、血中のW型コラーゲンの数値が上昇します。肝線維化の程度と血中W型コラーゲンの数値は比例することが知られています5)。W型コラーゲン>200ng/mLで肝線維化の進行が認められ、>350ng/mLの時には肝硬変が高い確率で疑われます。

 

     表; 飲酒マーカーの比較

マーカー 敏感度 (%) 特異度 (%) 半減期
γ-GT 34-85 11-85 2〜3週間
MCV 34-89 26-91 〜3ヶ月間
CDT 39-94 82-100 2週間
AST 15-69 low 2〜3週間
ALT 26-58 low 2〜3週間

    (Sillanaukee P. Laboratory markers of alcohol abuse.Alcohol Alcohol. 1996 を一部改変)

 

参考文献

  1. Poikolainen K. Underestimation of recalled alcohol intake in relation to actual consumption.Br J Addict. 1985 Jun;80(2):215-6.
  2. Conigrave KM, Davies P, Haber P, Whitfield JB. Traditional markers of excessive alcohol use.Addiction. 2003 Dec;98 Suppl 2:31-43.
  3. Yokoyama A, Omori T, Yokoyama T, Sato Y, Mizukami T, Matsushita S, Higuchi S, Maruyama K, Ishii H, Hibi T. Risk of squamous cell carcinoma of the upper aerodigestive tract in cancer-free alcoholic Japanese men: an endoscopic follow-up study.Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2006 Nov;15(11): 2209-15.
  4. Mancinelli R, Ceccanti M. Biomarkers in alcohol misuse: their role in the prevention and detection of thiamine deficiency.Alcohol Alcohol. 2009 Mar-Apr;44(2):177-82.
  5. Tsutsumi M, Takase S, Urashima S, Ueshima Y, Kawahara H, Takada A. Serum markers for hepatic fibrosis in alcoholic liver disease: which is the best marker, type III procollagen, type IV collagen, laminin, tissue inhibitor of metalloproteinase, or prolyl hydroxylase?Alcohol ClinExp Res. 1996 Dec;20(9):1512-7.

著者
吉村 淳

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